幸せ

本当は知っていたのだろうと思う。
ぼくは、ただ、単純に、照準を合わせて、弾をこめた銃の、
引き鉄をひいたのだ、もちろん、自分に向かって。
初めて好きになった、ふつうの人。
秘密にする必要も、誰かの代わりである必要も、
ただの遊びでもない、そんな、ふつうの人への恋心。
ふつうの失恋。ふつうのさみしさ。ふつうの喪失感。
でも、それが、とても幸せ。
ぼくみたいな、クズが、彼女の人生の、
邪魔をしなかったこと。
おだやかな気持ちよりも、きっと、多く、
いやな気分にはさせたのだろうけど、
それでも、まだ、取り返しのつく段階。
ドバイにきた、三分の一の理由をなくす。
三分の一は、長い時間をかけて、やっと過ぎたから、
あとの、三分の二を、残りの理由で、やり過ごそう。
ただ、ぼくも、ふつうの人のように、
彼女の近くに、ずっと、いられるのだと思っていた。
思っていた、というよりも、夢見ていた。
今日は、忌野清志郎ばかり、頭の中で流れる。
人間のクズと、Daydream Believer。
どっちも、とてもいい歌。
今日は、ティキプカプカとマルボロライトで、
きみの、幸せな日々を祈る日。
お酒も、たばこも、足りない。
こっちでできた、友達に、飲んでいるときに、
大丈夫かって聞かれてしまった。
変な顔してたかなあ。
幸せだと変な顔になるんだよね。
もう、彼女は、「ごめんね」と泣くことも、
「勝手に決めないでって思う」と泣くことも、
「さわれない」と泣くこともないんだ。
よかった、本当に、よかった。
好きな人たちが、みんな、幸せだったらいい。
日のあたる場所で木の椅子と机、少し甘いワイン、
ぼくは、そうやって死ねれば、それでいいから。
ずっと、ずっと、ひとりなんだ。
やっぱり、今までも、これからも。
この何年か、ちょっとした、勘違いをしていた。
ずっと、ごまかしてきた。
そうやって、ごまかしたまま、ずっと、
好きな人たちのそばにいられると思っていた。
そんなもの、長く続くはずもないのに。
今日は、とても、とても、幸せな一日。
かけがえのない一日。
また、時間が過ぎる間、待ち続けよう。
春も、夏も、秋も、冬も、ずっと、ひとりで。
いつか、みんなの幸せが満ちるときに、
昔、失敗したことを、もう一度試してみよう。
そんなときなら、きっと、うまくいく。