目の赤さと、血の赤さと、砂漠の夕暮れ

映画館で散々泣いてから、仕事に行って、
みんなに、目が赤いけど、休憩中に、
よく寝られなかったのか?って聞かれた。
たぶん、目が疲れているだけだよって答えた。
映画で泣いたって言っても良かったんだけど、
確信がなかったから。映画が理由なのかどうか。
信じたかったし、信じてほしかった、
そのことが、一番、泣けたのかなあ、と、うっすらと思う。
目が疲れているのは事実だから、問題ない。
ぼくは、幸せだなあと思った。やっぱり、幸せだ。
仕事は、まだ、からだがついていかないけど、
でも、それでも、仕上げなきゃいけないから、
無理矢理にでも動かしていると楽になる。
今日の仕事で、ちょっとだけ、ズレがおさまった。
明日は、かなり、修正できる気がする。
ぼくの状態はひどいけど、仕事がすきなのは変わらない。
誰かの幸せ、ときに悲しみの瞬間を共有できる、
こんな素敵な仕事が他にあるだろうか。
仕事の後、寮に戻ってきて、裏手で公園を眺めながら、
煙草を吸って、ひとやすみした。
その間に考えていたことで、ずいぶん、楽になった。
彼女が、やっと「好きな人」を見つけたのなら、
それは、本当に、良いことだと思う。
何年もかかって、やっと、見つけたのだから。
ずっと幸せでいてほしい。
少しでも、彼女の寂しさを紛らわせることができて、
必要としているものを共有できたのなら良かった。
元々、それが望んでいたことだった。
つい、望みすぎていたんだと思う。
もっと、もっと、ほしくなっていた。
だから、これで、よかった。もう、悪意はない。
風が吹けば、砂丘の形が変わってしまうのと同じように、
きれいに、ひっくり返って形を変えた悪意、祈り。
望んだ気持ちを、台無しにはしなかったと思う。
煙草を吸っている自分の匂いや、吐き出す煙に、
子供の頃に見た父を思い出す。
ぼくも、煙を輪にして、吐き出せるように練習しよう。
ほほを両方からぱふっと叩くと、ドーナツの煙が出るのだ。
どうやるのかは知っているんだけど、きれいなドーナツにならない。
祈ることを忘れないようにしようと思う。
キッチンに住む火と水と土と風と鉄の神様に。
お酒が大好きで、酔って幸せな顔をしている神様に。